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仙台地方裁判所 昭和62年(ワ)1020号 判決 1989年11月30日

原告

櫻井光一

ほか三名

被告

平間明浩

主文

一  被告は、原告櫻井光一に対し金二三三万四六六五円、原告櫻井映理子、同櫻井高志に対し各金九一万七三三二円、原告高橋ゆきに対し金二四万五〇〇〇円及び右各金員に対する昭和六一年五月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告櫻井光一に対し金二二六二万七五七〇円、原告櫻井映理子、同櫻井高志に対し各金一一七二万四一七八円、原告高橋ゆきに対し金二二〇万円及び右各金員に対する昭和六一年五月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六一年五月二〇日午前七時五五分頃

(二) 場所 宮城県柴田郡柴田町槻木白幡四丁目六番地の一先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 態様 被告は、その所有する普通乗用自動車(マツダカペラ九八〇kg、以下「甲車」という。)を運転し本件交差点を槻木駅方面から白幡橋方面に向かい直進するにあたり、右方道路(以下「甲道路」という。)より進入してきた訴外櫻井美和子(以下「亡美和子」という。)の運転する軽四輪貨物自動車(ダイハツミラクオーレ五四〇kg、七〇〇cc、以下「乙車」という。)に衝突させ、さらにその衝撃により乙車をその右前方に押し出し民家コンクリート壁に衝突させた。

(四) 受傷と死亡 亡美和子は、本件事故により開放性脳損傷を負い、昭和六一年五月二一日午後六時一五分頃、入院先の仙台市立病院において右傷害のため死亡した。

(五) 原告らの関係

原告櫻井光一(昭和二三年一一月生、以下「原告光一」という。)は、亡美和子の夫であり、原告櫻井映理子(昭和五五年五月生、以下「原告映理子」という。)、同櫻井高志(昭和五七年一二月生、以下「原告高志」という。)は亡美和子の子であり、原告高橋ゆき(大正一三年二月生、以下「原告ゆき」という。)は亡美和子の母である。

2  責任原因

本件交差点は交通整理の行なわれていない見通しの悪い交差点であつたが、被告は同交差点に設置されているカーブミラーにより乙車が交差道路(甲道路)を本件交差点に向かつて走行しているとを認識していたのであるから、本件交差点の手前で減速徐行し乙車の動静に注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と時速四〇キロメートル以上の速度で本件交差点に進入した重大な過失により、一時停止後発進した乙車に衝突して本件事故を発生させ、もつて亡美和子を死亡させた。したがつて被告は第一次的に自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、第二次的に民法七〇九条に基づき本件事故により原告らに生じた後記損害の賠償責任がある。

3  損害

(一) 亡美和子の逸失利益 金三三五九万三一七五円

亡美和子は、死亡当時三〇歳(昭和三〇年九月生)の健康な女子であり、夫と二人の子供を持ち、家事労働に従事し子を養育する傍ら、パートとして働く家庭の主婦であつた。

昭和五九年賃金センサス第一巻第一表産業計(民、公営計)により年齢三〇歳女子の平均給与額は月額一九万三九〇〇円、年収二三二万六八〇〇円であるから、これを基礎として右収入額の三割を生活費控除とし、就労可能年数三七年に対応する新ホフマン係数二〇・六二五円により中間利息を控除すると、亡美和子の逸失利益は三三五九万三一七五円(円未満切捨て、以下同じ。)となる。

計算式

232万6,800×(1-0.3)×20.625=3,359万3,175円

(二) 亡美和子の慰謝料 金一七〇〇万円

亡美和子は、夫の外、夫の父母及び養育を必要とする二人の子供を持つ主婦として家事、育児に専念し、家庭の中心としてその責任は重大であつたから、一家の支柱に準ずる者にあたり、その死亡に対する慰謝料は金一七〇〇万円が相当である。

(三) 原告らの固有の損害

(1) 葬儀費用 金一二四万九二一三円

原告光一は、亡美和子の葬式、法要、法名碑の購入を行ない、その費用として合計一二四万九二一三円を支出した。

(2) 慰謝料

原告光一は、最愛の妻を失つたうえ、亡美和子の家庭内での存在は大きかつたことから、今後の父母の扶養及び子供の養育を含めて、原告光一に与えた影響は計り知れず、また原告映理子及び同高志は幼くして母を失いその精神的苦痛は甚大である。したがつて右苦痛を慰謝するには、原告光一は四〇〇万円、原告映理子、同高志は各三〇〇万円が相当である。

また、原告ゆきは、病院への送迎や農業、家事の手伝い等亡美和子から生前に受けた恩恵は大きく、亡美和子の死亡により精神的支柱を失い、その精神的苦痛は計り知れず、右苦痛を慰謝するには二〇〇万円が相当である。

(四) 原告らの相続

原告光一は亡美和子の夫、原告映理子、同高志は亡美和子の子であり、亡美和子の逸失利益(前記(一))及び慰謝料(前記(二))を原告光一が二分の一(二五二九万六五八七円)、原告映理子、同高志が各四分の一(一二六四万八二九三円)ずつ相続した。

したがつて、損害額合計は、原告光一が三〇五四万五八〇〇円、原告映理子、同高志が各一五六四万八二九三円となる。

(五) 損益相殺

原告ゆきを除く原告らは、本件事故に関し自動車損害賠償責任保険から一九九三万六四六〇円を受領したので前記相続分に従い、原告光一が九九六万八二三〇円、原告映理子、同高志が各四九八万四一一五円を各損害額に充当したので、右充当後の損害額は、原告光一が二〇五七万七五七〇円、原告映理子、同高志が各一〇六六万四一七八円となる。

(六) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟の提起及び遂行を原告ら訴訟代理人に依頼したが、右弁護士費用は各請求金額の約一割に相当する原告光一が二〇五万円、原告映理子、同高志が各一〇六万円、原告ゆきが二〇万円である。

4  よつて被告に対し、以上の損害の合計として原告光一は二二六二万七五七〇円、原告映理子、同高志は各一一七二万四一七八円、原告ゆきは二二〇万円及び右各金員に対する不法行為日である昭和六一年五月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1のうち(五)は不知、その余は認める。

2  同2は否認する。後記抗弁のとおり本件事故は殆んどが亡美和子の過失により惹起されたもので、仮に被告に本件事故の賠償責任があるとしてもその責任の成立する範囲は極めて僅かである。

3  同3は否認する。原告らの主張する慰謝料総額二九〇〇万円はあまりに高額であり、本件の慰謝料総額は一六〇〇万円が相当である。また原告らの主張する葬儀費用には香典返しの分も含まれているから、葬儀費用は香典分を差引いた九〇万円が相当である。

三  抗弁

本件事故は、被告が亡美和子は本件交差点直前の一時停止の標識に従い一時停止するものと考え、時速三五キロメートルで進行したところ、亡美和子が右標識を無視して一時停止せずに本件交差点内に侵入したことから惹起された。したがつて本件事故発生における亡美和子の一時停止義務違反により八割の過失相殺がされるべきである。また、亡美和子の死という重大な結果は亡美和子がシートベルトを着用せずに運転していたために生じた。したがつて右損害発生における亡美和子のシートベルト不着用により二割の過失相殺がされるべきである。

四  抗弁に対する認否及び反論

全て否認する。亡美和子は本件交差点直前で一時停止した。本件事故は被告が乙車の存在を認識しながら減速徐行せずに高速度で本件交差点内に進入したために発生した。また、本件事故当時シートベルトの着用は法律上義務付けられてなく、シートベルト不着用と亡美和子の死亡との因果関係も不明である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1のうち(五)を除く事実は当事者間に争いがなく、右(五)の事実は成立に争いのない甲第一、第二号証により認めることができる。

二  責任原因

1  本件事故態様として、被告がその所有する甲車を運転して本件交差点を槻木駅方面から白幡橋方面に向かい直進する(以下被告の進行道路を「乙道路」という。)にあたり、右方道路(甲道路)より進入してきた亡美和子運転の乙車と衝突し、その衝撃により乙車をその右前方に押し出し民家コンクリート壁に衝突させた事実は当事者間に争いがない。

右争いがない事実と、成立に争いのない乙第一号証ないし第三号証、第七、第八号証、第一四ないし第一六号証、第一九号証、第二四、第二五号証、第二八号証、本件事故現場及び事故車両の写真であることに争いのない乙第六号証、証人佐藤昌義、同駒沢幹也の各証言、原告光一、同ゆき、被告各本人尋問の結果、並びに検証の結果によると、次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故現場は、宮城県柴田郡柴田町槻木白幡四丁目六番地の一先の交差点であり、白幡交差点から北東へ約三〇〇メートル入つた旧国道四号線の北側に位置し、槻木駅方向と東禅寺方向に交差する裏通りの見通しの悪い十字路交差点である。本件交差点は交通整理が行なわれていなかつたが、甲道路には交差点直前の両方向に道路標識により一時停止すべき場所との指定があつた。東西に走る乙道路の幅員は交差点を挟んで槻木駅方向は六・二メートルだが、白幡橋方向は三・八メートルと狭くなつており、南北に走る甲道路の幅員は交差点を挟んで東禅寺方向が六・〇メートル、旧四号線側が五・七メートルであつた。道路はアスフアルト舗装され、事故当時は小雨のため湿潤していた。

(二)  亡美和子は、車で約一五分かかるパート先の大沼製作所に普段は午前八時三〇分までに出勤していたが、本件事故当日は早番であつたため、いつもより三〇分早く七時四〇分頃、乙車を運転して出発した。早番の際は早朝のため普段の通勤路の一部が進入禁止のため、同女は迂回路として甲道路を走行して本件事故現場に向かつた。

(三)  被告(昭和三五年四月生)は車で約一五分かかる勤務先のタイヤ卸売会社の出勤時間が午前八時三〇分であつたため、本件事故当日七時五二分頃、甲車を運転して自宅を出発し、二、三分経過後に毎日通勤に利用している乙道路を槻木駅方向から本件交差点へ時速約四〇キロメートルで走行してきた。被告は、交差点手前約一一・六メートルの別紙図面<1>地点(以下の符号は全て同図面上のものである。)に来た時、交差点南西角に設置されていたカーブミラーにより甲道路を東禅寺方向から時速約二五キロメートルで交差点へ走行してきた乙車を交差点手前約四・一メートルの<ア>地点に発見したが、乙車が標識に従い交差点手前で一時停止するものと軽信しカーブミラーを見ながらも何ら減速せずに進行していつたところ、交差点手前約二・三メートルの<2>地点で、乙車が一時停止せずに時速約二〇キロメートルに減速して交差点内に進入してくるのを発見し急制動の措置を採つたが及ばず、交差点内ほぼ中央の<×>地点で甲車前部を乙車左前方側面(甲車のナンバープレートが乙車左前輪に接触する位置)に衝突させた(第一衝突)。右衝突時には両車共制動していて、衝突直前の時速は甲車が約三八キロメートル、乙車が約二〇キロメートルであり、亡美和子及び被告ともシートベルトを着用していなかつた。右衝突により、甲車はその進路を左前方約四五度に変えた上右前部を交差点南西角の電柱に衝突させて停止し、乙車はその進路を右前方約六〇度に変えた上交差点南西角の民家北側コンクリート壁に衝突し(第二衝突)、さらにその進路を右前方に変え、衝突地点から約三〇メートル離れた<エ>地点で停止した。

(四)  第一衝突の衝撃による慣性のため亡美和子の身体はシートベルトを着けていなかつたこともあり乙車助手席側ドアに強く打ち付けられたが、さらに乙車が第一衝突地点から第二衝突地点に移動する過程で開放された助手席側ドアから亡美和子の頭部が車外に現われた。乙車は第二衝突により右頭部を車体と民家コンクリート壁との間に挟み込み、一・二メートル以上の間、その状態で移動を続けたため、亡美和子は右顔面から前額部にかけて強い衝撃を受け、眼瞼部からの開放性脳損傷を負い、その結果、同女は翌日の午後六時一五分頃、入院先の病院で死亡した。

一方被告は本件事故により加療三週間を要する頭部、胸部打撲等の傷害を負つた。

(五)  亡美和子は昭和五三年頃普通運転免許を取得し、これまで無事故無違反であり、乙車を専用に使用していた。被告は昭和五三年六月に普通運転免許を取得し、少年のとき速度違反と通行禁止違反の前歴が、成人後はいずれも速度違反で罰金一回、反則金二回の前科前歴があり、本件事故につき罰金二〇万円の刑事処分を受け、免許停止九〇日間の行政処分を受けた。また被告は本件事故当時、対人一億円の任意保険に入つていた。なお本件事故後、本件交差点の乙道路にも一時停止の標識が設置された。

2  以上の認定事実によると、本件事故現場は交通整理の行なわれていない見通しの悪い交差点であり、しかも被告は本件交差点に設置されているカーブミラーにより交差する甲道路を乙車が走行してくるのを認識していた。また衝突時の両車の位置関係、速度からすると、本件交差点には減速した甲車が先に進入し、その後高速度の乙車が進入して衝突したことは明らかである。

そうすると本件事故は被告が交差点手前で減速あるいは徐行して乙車の動静に注意して進行すべきであつたのに、甲車を減速あるいは徐行させることなく漫然と交差点内に進入させたという重大な過失により生じたものと認めることができる。なお原告らは亡美和子が本件交差点手前で一時停止したと主張するが、前記1(三)認定の交差点進入直前の両車の位置関係からすると、乙車が一時停止していたとすれば再発進して衝突地点に移動するまでに甲車は交差点を通過していたと認められること、再発進後衝突地点までの加速では第一衝突の衝撃により甲車の進行方向を約四五度変える運動量を得ることはできないことから、右主張は採用できない。

したがつて被告は自賠法三条、民法七〇九条に基づき本件事故により原告らに生じた後記損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  亡美和子の逸失利益

前掲甲第一号証及び原告光一本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、亡美和子は死亡当時三〇歳の健康な女子で夫と二人の子供を持ち、夫の両親の扶養、子の養育等家事労働に従事する主婦であつたこと、さらに同女は近在の大沼制作所でパートとして働き月収一〇万円の収入を得ていたこと、同女は本件事故に遭わなければ六七歳まで三七年間稼働可能であつたことが認められる。

ところで、本件のように時間給による収入のある主婦の逸失利益を算定するにあたつては、一般に無職の主婦が、女子労働者の平均賃金を基礎として損害賠償を請求しうることとの権衡からして、右時間給による収入が平均賃金を下回る場合には、平均賃金を基礎として算定し、その平均賃金は、全国平均によるのが相当である。

そうすると、賃金センサス昭和六〇年第一巻第一表女子労働者学歴計年齢別平均給与額から三〇歳の年収額が金二五六万五三〇〇円であることは当裁判所に顕著であり、それに生活費控除を四割行ない、新ホフマン式計算法により中間利息を控除し(新ホフマン係数二〇・六二五四)、本件事故当時の原価に引き直すと亡美和子の逸失利益は三一七四万六二〇三円となる。

計算式

256万5,300×(1-0.4)×20.6254=3,174万6,203円

2  亡美和子の慰謝料

前記認定の亡美和子の年齢及び家庭環境、原告光一本人尋問の結果により認められる亡美和子の櫻井家における妻及び母としての重要な地位、並びに前記二で認定した本件事故態様、結果の悲惨さ等を考慮すると、亡美和子の慰謝料としては一六〇〇万円が相当である。

3  原告らの固有の損害

(一)  葬儀費用

弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三ないし第八号証及び弁論の全趣旨によると、原告光一は、亡美和子の葬式、法要、法名碑の購入を行ない合計一二四万九二一三円を支出したことが認められるから、その内一〇〇万円を本件事故による損害と認める。

(二)  慰謝料

前掲各証拠によると、本件事故により、原告光一は最愛の妻を失うとともに両親の扶養及び子供の養育の主要な担い手を失い、原告映理子、同高志は幼くして母を失つたことが認められ、その慰謝料としては原告光一が二〇〇万円、原告映理子、同高志が各一〇〇万円とするのが相当である。

また、原告ゆき本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告ゆきは未婚の次男とともに暮らしていたが、近在の亡美和子に家事や農業の手伝いをしてもらうとともに、亡美和子は原告ゆきの精神的な支えになつていたことが認められるから、その慰謝料は五〇万円が相当である。

4  原告らの相続及び損害額合計

前記認定の原告らの身分関係によると、亡美和子の逸失利益及び慰謝料を原告光一は夫として二分の一、原告映理子、同高志は子として各四分の一ずつ相続したことが認められる。そうすると、損害額合計は、原告光一が二六八七万三一〇一円、原告映理子、同高志が各一二九三万六五五〇円、原告ゆきが五〇万円となる。

計算式

(3,174万6,203+1,600万)×1/2+100万+200万=2,687万3,101円

(3,174万6,203+1,600万)×1/4+100万=1,293万6,550円

四  過失相殺

前記二で認定した本件事故態様によると、本件事故発生につき亡美和子にも本件交差点手前で乙車を一時停止しなかつた過失が認められる。

また、本件事故の際、亡美和子はシートベルトを着用していなかつたがシートベルトを着用していたならば身体はシートベルトにより腰の部分で固定され、同女の頭部が開放された助手席側ドアから外に出ることはなく、開放性脳損傷を負うこともなかつたものと認められる。そうすると、亡美和子のシートベルト不着用と同女の死亡との間に因果関係を認めることができるから、本件損害発生につき同女にも過失が認められる。なお、本件事故当時、シートベルト(座席ベルト)着用は道路交通法上義務付られていなかつたが、当時からシートベルトの効用は一般に知られていたから、法的義務付の有無は前記判断を左右するものではない。

以上の本件事故態様によると、被告及び亡美和子の本件事故及び損害発生についての過失割合は、被告が四割五分、亡美和子が五割五分(内訳は一時停止違反が四割五分、シートベルト不着用が一割)とするのが相当である。したがつて、前記三4の損害額に過失相殺五割五分を行うと、損害額は原告光一が一二〇九万二八九五円原告映理子、同高志が各五八二万一四四七円、原告ゆきが二二万五〇〇〇円となる。

計算式

2,687万3,101×0.45=1,209万2,895円

1,293万6,550×0.45=582万1,447円

50万×0.45=22万5,000円

五  損益相殺

原告光一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告ゆきを除く原告らは、本件事故に関し自賠責保険金一九九三万六四六〇円を受領し、前記各相続分に従い原告光一が九九六万八二三〇円、原告映理子、同高志が各四九八万四一一五円を各損害に充当したことが認められるから、損益相殺後の損害額は、原告光一が二一二万四六六五円、原告映理子、同高志が各八三万七三三二円となる。

計算式

1,209万2,895-996万8,230=212万4,665円

582万1,447-498万4,115=88万7,332円

六  弁護士費用

本件訴訟の事案の内容、審理経過、認容額、その他諸般の事情を考慮すると、原告らが被告に対し損害賠償として求めうる弁護士費用は、原告光一が二一万円、原告映理子、同高志が各八万円、原告ゆきが二万円となる。

七  結論

以上によると、原告らが本訴で請求できる損害額合計は、原告光一が二三三万四六六五円、原告映理子、同高志が各九一万七三三二円、原告ゆきが二四万五〇〇〇円となる。

したがつて、原告らの被告に対する本訴各請求のうち、主文第一項のとおり、右各金員とこれらに対する不法行為日たる昭和六一年五月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、仮執行免脱宣言の申立は相当でないから却下して、主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷正俊)

交通事故現場見取図

<省略>

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